乳幼児突然死症候群(SIDS)のリスク要因
乳幼児突然死症候群(Sudden Infant Death Syndrome、シッズ、以降 SIDS と略します)とは、「何の予兆もないままに、主に1歳未満の健康にみえた乳児に、突然死をもたらす疾患」(Wikipediaより)のことで、日本では1歳未満の乳児の死亡原因の第3位を占めています*1。
人口動態統計年報(2009年)によると、SIDSによる死亡数は乳児10万人あたり13.6人ですので、約7000人に1人の割合となります。
乳幼児突然死症候群(SIDS)を防止するための注意事項は母子健康手帳の副読本(P66~67、「眠り」の環境と注意ポイント)に書かれているそうですので参考になさってください。
SIDSのリスク要因およびリスク削減指針について調べたので、その内容を本記事にまとめました(基にした参考文献リストは本記事最後にあります)。
注意:本記事の正確性はまったく保証されていません。この記事で提供されている情報の使用や採用を試みた結果に対して責任を負うことはできません。本記事にもWikipedia:医療に関する免責事項と同様の免責事項が適用されるとします。
乳幼児突然死症候群による死者の月齢別割合
0歳児の月齢によってSIDSの死亡者数の割合がどのように変わるのか示したのが次の図です(文献[2]の図を改変)。
生後1ヶ月~2ヶ月で死亡者割合がピークに達しており、この時期は特に注意が必要なことが分かります。その後は1歳に近づくに連れて死亡者の割合が減少しています。
リスク要因
SIDSの高リスク要因と低リスク要因を図と表にまとめました(文献[1]参照)*2。
添い寝、柔らかな寝床、うつ伏せ寝のリスクが特に高いことがわかります。
リスク要因 | リスク比 | 95%信頼区間*3 |
---|---|---|
添い寝(喫煙する母親) | 13.9 | 9.58~20.09 |
妊娠37週以下で出産 | 11.67 | 1.84~74.14 |
柔らかな寝床 | 5.1 | 3.1~8.3 |
うつ伏せ寝(あおむけ寝と比べて) | 4.92 | 3.62~6.58 |
うつ伏せ寝(それ以外の姿勢と比べて) | 4.3 | 3.39~5.39 |
添い寝(喫煙しない母親) | 2.09 | 0.98~4.39 |
妊娠中の喫煙 | 2.03 | 1.16~3.54 |
親が無職 | 1.72 | 1.11~2.66 |
出生後にたばこの煙にさらされること | 1.65 | 1.2~2.28 |
横向け寝(あおむけ寝と比べて) | 1.36 | 1.03~1.8 |
予防接種 | 0.54 | 0.39~0.76 |
おしゃぶりの使用 | 0.39 | 0.31~0.5 |
乳幼児突然死症候群(SIDS)リスク削減指針
米国小児科学会(AAP、 American Academy of Pediatrics)が2011年に発表した乳幼児突然死症候群(SIDS)リスク削減指針(参考文献[3])の一部を日本語に訳してみました(もちろん非公式ですし誤訳もあると思います)。
エビデンス(科学的根拠)の強さに応じてレベルAからCに分かれています。
エビデンスレベルAの指針(しっかりした科学的根拠に基づく)
- 1歳になるまでは、SIDSのリスクを減らすためにいつもあお向け寝で眠らせること。横向き寝は安全でないため薦められない。
- 固めの寝具を用いること。SIDSや窒息のリスクを減らすため、シーツでピッタリと覆われた固めのべビーベッドマットレスが推奨されます。
- 相部屋ですが添い寝はしないことが推奨されます。こうするとSIDSのリスクが50%減ることがわかっています。さらに、大人のベッドで寝ている場合に起きる可能性がある窒息や首が絞まってしまうことを避けることができます。
- SIDS、窒息、首が絞まってしまうリスクを少なくするため、柔らかなもの(枕、枕のようなおもちゃ、キルト、掛け布団など)や畳んでいない寝具類(ブランケットやシーツ)はベビーベッドから遠ざけておくこと。
- 妊婦は定期的に妊婦検診を受けること。定期的に妊婦検診を受けた母親の乳児のSIDSリスクは低くなることが疫学的にわかっています。
- 妊娠中および出産後はタバコの煙を避けること。妊娠中の喫煙および乳児のいる環境にある煙草の煙は、ともにSIDSの主要なリスク因子です。
- 妊娠中および出産後のアルコールや違法ドラッグ摂取は避けること。出生前および出生後にアルコールや違法ドラッグに触れるとSIDSのリスクが増加します。
- 母乳で育てることが推奨されます。
- 昼寝や就寝時におしゃぶりをくわえさせることを検討すること。メカニズムはまだ不明ですが、おしゃぶりはSIDSに対して予防効果があることが報告されています。おしゃぶりが口から落ちても予防効果は就寝中持続します。
- 暑くし過ぎないこと。研究により暑くしすぎるとSIDSのリスクが増加することがわかっていますが、暑くしすぎること(overheating)の定義が研究によりまちまちです。したがって、適切な室温の指針を示すことは困難です。
- SIDSのリスクを低減する目的で家庭用心拍呼吸モニターを使用しないこと。
- SIDSのリスクを減らす全国的運動を拡大しましょう。(医療従事者向けの指針のため以降は略しました)
エビデンスレベルBの指針(限定的または整合性に欠けた科学的根拠に基づく)
- 米国小児科学会および疾病対策予防センター(CDC)の推奨に従って乳児は予防接種を受けること。予防接種とSIDSの因果関係を示す証拠はありません。実際、最近の研究によると予防接種はSIDSに対する予防効果があることが報告されています。米国小児科学会の推奨に従って小児健診を受けること。
- SIDSのリスクを減らすための市販商品(wedgeやポジショナー、特殊マットレス、特殊寝具)は不要です。これらの商品がSIDSや窒息のリスクを軽減したり、商品自体の安全性に関する証拠はありません。
- 成長を促進するため、および斜頭症(positional plagiocephaly、フラットヘッド症候群)の発症を最小限にするために、監視下で、乳児が目覚めているときにうつぶせ寝の時間(tummy time、タミータイム)*4を持つことが推奨されます。
補足
詳細は文献[1]を参照してください。
最近の研究によると、乳児の死者の92.2%でうつ伏せ寝、添い寝、べビーベッドやバシネット以外での就寝が原因であったことがわかっています。海外の事例ですが、1990年台からあお向け寝を推奨したところ、SIDSによる死亡数が50~70%も減少しました。
添い寝の禁止については賛否両論があります。添い寝の良い点は、授乳頻度が増えたり、親と子供の絆を形成したり、睡眠障害の減少があります。しかし、米国においてSIDSで死亡した乳児の約半数が添い寝によるものであるために、米国小児科学会は2005年に添い寝を非推奨としました。
特に、低出生体重児、親が喫煙家、親が違法ドラッグや飲酒する場合に添い寝によるリスクが増大します。最近の研究によると、添い寝のリスクは4ヶ月以下の乳児で増加しますが、それ以降の乳児では明らかな増加は認められませんでした。
0歳児は親と別に、しかし、近くで、理想的には母親のそばのバシネットやべビーベッドで寝たほうがよい。また、ほかの子供と寝たり、親とカウチ(長椅子)やアームチェアで寝ることはすべきではありません。
あお向けで寝る習慣のある乳児の半数で斜頭症(positional plagiocephaly、フラットヘッド症候群)が見られ、あお向け寝の推奨以降はより頻繁に見られるようになりました。頭蓋骨の変形リスクを減少させるには、乳児が起きているときに、親の監視下でうつぶせ寝の時間(tummy time、タミータイム)を持つ必要があります。横向きで寝ている乳児では反対側に寝がえりさせることも必要です。
斜頸が見られるときは理学療法が役に立ちます。
乳幼児突然死症候群(SIDS)と似たものとして乳幼児突発性危急事態(Apparent Life-Threatening Events、ALTE、アルテ)がありますが、詳細はリンク先を参照してください。
参考文献
[1].Adams, Stephen M., Matthew W. Good, and Gina M. DeFranco. "Sudden infant death syndrome." American Family Physician 79.10 (2009): 870-4.
[2].Kattwinkel, J., et al. "The changing concept of sudden infant death syndrome: diagnostic coding shifts, controversies regarding the sleeping environment, and new variables to consider in reducing risk." Pediatrics 116.5 (2005): 1245-1255.
[3].Moon, Rachel Y. "SIDS and other sleep-related infant deaths: expansion of recommendations for a safe infant sleeping environment." Pediatrics 128.5 (2011): e1341-e1367.